平成20年度 たには会研修会 (本部主催)
プログラム・抄録集
 
日時:平成20年4月20日(日曜) 13:30〜16:30 開場13:00より
場所:メルパルク京都 [旧:ぱるるプラザ]  5階 会議室A
 (京都駅烏丸口 ロータリー東側)
 
プログラム
『明治国際医療大学における鍼灸臨床の安全管理対策と実践』
―鍼灸臨床上の問題点の整理とその対策、および大学教育への導入―
司会 今井賢治、石崎直人
たには会学術部、明治国際医療大学臨床鍼灸学教室
 
今回の研修会では、鍼灸臨床における安全管理対策からその実践事例までを取り上げ、本学で行ってきたこれまでの取り組みを総括します。また、これらの新しい動向は本学の大学教育にも取り入れられており、近年の卒業生がどのような教育を受けているのかを、同窓生の方々にも知っていただく必要があるだろうとも考えました。
今回のプレゼンテーションの担当者は、皆、この領域に関する実務を通して問題点を直視し、現代が要求している安全度の高い鍼灸臨床の姿を模索してきました。
従来の慣習のみにとらわれない新しい取り組みを知っていただき、鍼灸臨床のより良い発展に繋がるきっかけを提供したいと考え開催いたします。
 
 
Part 1 鍼灸臨床における安全管理対策の必要性
 
(1) 有害事象から学ぶこと

江川雅人(明治国際医療大学 加齢鍼灸学教室)

(2) 安全性ガイドラインの意味するところ

石崎直人(明治国際医療大学臨床鍼灸学 内臓機能系ディビジョン)

(3) インシデント(ヒヤリ・ハット)・レポートと安全管理対策
−本学附属鍼灸センターにおける取り組み−

鶴 浩幸(明治国際医療大学臨床鍼灸学 感覚機能系ディビジョン)

 
Part 2 安全対策の実践とそれに関わる新しい技術
 
(1) 感染防止の実践事例

新原寿志(明治国際医療大学臨床鍼灸医学 基礎鍼灸学教室)

(2) 刺鍼に関する問題点と解決のための新技術
−クリーンニードル・テクニックの開発とその現況−

今井賢治(明治国際医療大学臨床鍼灸学 運動・神経機能系ディビジョン)

 
Part 3 総合討論

Part 1 鍼灸臨床における安全管理対策の必要性 (1)
有害事象から学ぶこと
 
明治国際医療大学 加齢鍼灸学教室
(社)全日本鍼灸学会研究部安全性委員会
江川雅人
 
 全日本鍼灸学会研究部安全性委員会では、1927年から1997年までの間に報告された鍼灸治療の有害事象に関する232の文献を集積し検討した。その内容については当日報告するが、埋没鍼(折鍼)や灸に関する基礎研究、感染に関する調査については鍼灸医学系の雑誌に報告されている一方で、埋没鍼(折鍼)、感染、灸による火傷に関する症例は医師により西洋医学系の雑誌に報告されることが多かった。すなわち、鍼灸により生じた有害事象や過誤が鍼灸師にフィードバックされていない可能性が高い。我々は、より安全な鍼灸臨床の実現に向けて工夫を重ねるとともに、過誤については常に共通の情報として知り得るようなシステムが必要であると考えられる。また、安全な治療方法と考えられていた鍼灸治療にも重篤な事故が存在することを神経傷害に関する文献や症例報告から示し、安全な鍼灸臨床の実現を考える機会としたい。
 一方、「鍼の抜き忘れ」は我々鍼灸師にとって最も身近な医療事故の一つである。安全性委員会が行った139名(有効回答137名)のアンケート調査では、「抜き忘れ事故」は頭部や下肢に多く見られ、体毛やタオルにより置鍼が隠れていたことが原因であった。また「抜き忘れ」防止の対策として「抜鍼後の目視確認」や「刺入鍼本数の確認」は行われているものの、「抜鍼数と鍼管(パック)数の照合」などは十分に行われているとは言えなかった。神経傷害や折鍼事故につながる「抜き忘れ」に関して、その防止法などについて検討する機会としたい。
 
【参考文献】
全日本鍼灸学会雑誌:50(4),680-718,2000.
全日本鍼灸学会雑誌:51(1),98-128,2001.
全日本鍼灸学会雑誌:51(2),195-206,2001.
全日本鍼灸学会雑誌:57(1),2-15,2007.

Part 1 鍼灸臨床における安全管理対策の必要性 (2)
安全性ガイドラインの意味するところ
明治国際医療大学 臨床鍼灸学教室 内臓機能系ディビジョン
石崎直人
 
 鍼灸治療は比較的安全な治療法であるといわれています。実際に鍼灸施術によって重篤な過誤が起こる率は10,000件に数件以下と報告されています。しかしながら、例え少数例であっても有害な事象は起こるべきではありません。そういう意味では、安全性の追求には限りがないということもできます。
 安全性の議論のなかで、鍼治療による感染についてときどき耳にするのは、「聞いたことがない」あるいは「経験上まず起こらない」といった考え方です。しかし実際には鍼灸治療が原因と思われる感染症の報告が少ないながらも認められますし、鍼治療と肝炎の関連を示唆するような表現は内科学の教科書にも記載されているのが現状です。
 日本では比較的早い時期から滅菌個包装の鍼が開発され、現在では広く普及しています。また手指の衛生についても、自動水栓などによる手洗い環境の改善や擦式消毒剤の普及によって大きく変わりました。しかし素手で鍼を摘む「押手」については、一部で指サックなどの普及が推進されてはいるものの、多くの施設で一般的な手技として利用されています。
 1999年に発行されたWHOのガイドライン1)では、鍼治療の教育と安全性についての指針が示されており、それによると身体に刺入する鍼には触れてはならないことが明記されています。また米国で鍼の資格を得るために必要な衛生的刺鍼の実技で取り入れられているCNT(Clean Needle Technique)でも鍼体に触れない刺鍼が必須とされています2),3)。海外で普及している鍼にくらべて細くやわらかい日本の鍼は何かで支える方がスムースに刺入できることは確かですが、少なくとも衛生面では世界的な基準に遅れをとっているということになるのかもしれません。
 今回は、WHOのガイドラインと米国のCNTの内容を中心に紹介し、その意図と日本の鍼灸における適用の問題点についてディスカッションさせていただきたいと思います。
 
【参考文献】
1)鍼治療の基礎教育と安全性に関するガイドライン.全日本鍼灸学会雑誌 2000; 50(3):505-525.
2)National Acupuncture Foundation. Clean Needle Technique Manual for Acupuncturists. Fourth Edition. Washington D.C. 1997.
3)石崎直人.アメリカにおける衛生的刺鍼法―メイジ・カレッジ方式―.医道の日本 1998;647:92-105.
 

Part 1 鍼灸臨床における安全管理対策の必要性 (2)
 
インシデント(ヒヤリ・ハット)・レポートと安全管理対策
−本学附属鍼灸センターにおける取り組み−
 
明治国際医療大学 臨床鍼灸学感覚機能系ディビジョン
鶴 浩幸
 
 近年、医療事故や医療過誤のニュースがマスコミを賑わすようになり、医療機関における事故防止が以前にも増して重要になってきている。鍼灸医療においても事故防止に関する重要性は年々高まっており、鍼灸の過誤や事故防止に関する報告が散見される。しかしながら、鍼灸師養成施設での(学生実習を含む)鍼灸診療における危機管理に関する報告は非常に少ない。鍼灸医学を教育する上では診断・治療技術や治療効果のみがクローズアップされて教育の中心となりがちであるが、事故防止のためのリスクマネジメントを教育に導入することは鍼灸臨床教育において極めて重要であると考えられる。一般的にインシデントとは、アクシデントに対比される言葉であり、患者様に実際の被害が及ぶことはなかったが、診療の場においてヒヤリとしたり、ハッとしたりした事例である。鍼灸臨床に関する事故を未然に防ぐためには、このインシデントの段階で対処することが望ましいと考えられるが、そのためには実際の鍼灸臨床において如何なるインシデントやアクシデントが起こり得るのかを知り、鍼灸臨床独自のインシデントを認識した上で臨床における注意事項やその対策を整理することが必要となる。そこで、筆者らは事故防止のために本学附属鍼灸センターにおいて独自にインシデントレポート(IR)用紙を作成し、IR用紙に記述された事例内容を附属鍼灸センタースタッフや学生にフィードバックするシステムの構築を行い、附属鍼灸センターでの治療や学内鍼灸臨床実習に導入した。
 本発表では、本学附属鍼灸センターにおいて実施されているインシデントレポートシステムを紹介するとともに、その注意点について報告する。
 

Part 2 安全対策の実践とそれに関わる新しい技術 (1)
 
感染防止の実践事例
−適切な手洗い−
明治国際医療大学 基礎鍼灸学教室
新原寿志
 
 我が国の医療あるいは介護福祉における感染防止策は、米国の疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインに準じて実施されている。この感染防止策には「感染経路別予防策」と「標準予防策(スタンダードプレコーション)」があり、このうち「感染経路別予防策」は、空気感染予防策と飛沫感染予防策および接触感染予防策からなる。一方、「標準予防策(スタンダードプレコーション)」は「すべての患者・利用者・要介護者などの血液・体液・排泄物などは、何らかの感染性があるものとして取り扱う。」を基本概念とし、「適切な手洗い」と「血液や体液の接触防止(策)」および「針刺し事故の防止(策)」に重点がおかれている。なかでも「適切な手洗い」は感染防止の基本でかつ有効な対策とされ重要視されている。なお、手洗いには「日常の手洗い」と「衛生的手洗い」および「手術時手洗い」がある。
 我が国の鍼灸は伝統的に管鍼法を採用しており、素手で針を操作するのが一般的である。世界保健機関(WHO)の「鍼治療の基礎教育と安全性に関するガイドライン(1996)」では、感染防止策としてディスポーザブル鍼や指サックおよびグローブの使用を推奨しているが、10年近く経った現在においてもこれらの使用率は低い(ディスポ鍼単独使用率 56.7%、指サックあるいはグローブの常時使用率 各0.9%、新原: 近畿二府四県のアンケート調査, 2007)。指サックやグローブの使用には、操作感やコストなどさまざまな問題が存在するため、急激に普及することは期待できない。このような現状から、鍼灸師にはより厳重な手洗いが求められている(指サックやグローブを使用すれば、適切な手洗いは不要という意味ではない)。
 そこで本講演では、鍼灸師が必ず修得しておかなければならない「適切な手洗い」なかでも「日常の手洗い」と「衛生的手洗い」を紹介すると共にそのポイント(失敗しやすい動作)を述べる。また、2007年度に近畿二府四県の鍼灸院(鍼灸接骨院も含む)を対象に実施したアンケート調査の結果を一部を報告する。

Part 2 安全対策の実践とそれに関わる新しい技術 (2)
刺鍼に関する問題点と解決のための新技術
−クリーンニードル・テクニックの開発とその現況−
 
明治国際医療大学 臨床鍼灸学教室 運動・神経機能系ディビジョン
今井賢治
 
 近年、諸外国において鍼灸医学の導入は進んでおり、日本の鍼技術がグローバルスタンダードとなるには、先ず以って日本式クリーンニードル・テクニックの開発が急務である。何故なら、従来の押手による刺鍼テクニックは、鍼を不潔に扱わざるを得ないことが挙げられ、WHOが勧告する「鍼体を清潔に保ち、刺入しなくてはならない」、という基準を満たすことができていなかった。また、医療現場で鍼治療を導入する際にも、医学的な清潔概念に合った手技を用いることが要求される時代も近づいてきている。だが、押手と鍼管を用いた刺鍼手技は日本独自の方法であり、これらを基本として日本鍼灸の技術と文化は発展してきている。それゆえ、この手法を生かしたままでのクリーンニードル・テクニックの開発が重要であろうと考えている。
 これまでに、様々な鍼治療用のクリーンニードルが検討されている。これらの概要についてはオンライン特許公開(http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl)の検索で知ることができる。鍼管にキャップや薄膜の装着を試みたもの、鍼管部がセパレートされるもの、鍼体を薄膜で防護したもの、などの考案が見受けられる。いずれも考案としては優れているが、解決の決め手には到っていない。
 今回は、演者が考案したクリーンニードルや鍼ホルダーなどを用いることで、日本式の刺鍼手法を生かしたまま、クリーンニードル・テクニックの実践が可能であることを示しながら、その開発の現状と問題点を紹介する。